Interview
パリと沖縄、ふたつの原点を持つシェフの言葉
Chef's Story
2024年春、東京・代官山のアトリエにて。 La Maison Dorée を率いる Tatsunari Zukeran シェフに、 料理への情熱と哲学について語っていただきました。
料理の世界を志したきっかけを教えてください。
子どもの頃、祖母の台所が私の宇宙でした。沖縄の強い日差しが差し込む小さな台所で、
祖母はいつも歌いながら料理をしていた。ゴーヤーチャンプルーの香り、
泡盛で煮たラフテーがことことと煮える音——あの記憶が今でも私の料理の根っこにあります。
中学生のとき、母の誕生日に初めて料理をしました。レシピ本を見ながら作ったビーフシチューが、
家族に喜ばれた。その瞬間、「これだ」と思った。料理は人を幸せにできる、と。
以来、進路に迷ったことは一度もありません。
なぜフランス料理を選んだのですか?
東京の修業先で出会った一皿が、すべてを変えました。
先輩が作ったブフ・ブルギニョン。食材は牛肉と野菜とワイン、それだけなのに、
口に入れた瞬間、まるで違う世界が広がった。長い時間と手間と愛情が、
あのとろけるような味わいに凝縮されていた。
フランス料理は「時間」を調理する料理だと思います。
素材に時間を与えることで、最初には存在しなかった味が生まれる。
その錬金術のような側面に、完全に魅了されました。
「本場で学ばなければ」という衝動は、もはや義務感ではなく欲望でした。
「フランス料理は時間を調理する料理だ。
素材に時間を与えることで、
最初には存在しなかった味が生まれる」
パリでの修業はどのようなものでしたか?
最初の1年は、本当に辛かった。言葉の壁はもちろん、文化の壁が想像以上でした。
フランスの厨房は厳しい。失敗は許されない、言い訳はしない、手は止めない。
毎日18時間立ちっぱなしで、帰ったらすぐ眠る、そんな日々が続きました。
でも、ある日気づいたんです。フランス人の同僚たちが私に質問をしてくれるようになった。
「お前の出汁の引き方を教えてくれ」「この和の食材を使うにはどうすればいい?」と。
その瞬間、私がここにいる意味がわかった。私は学びに来ただけでなく、
日本の料理文化を伝える橋にもなれると。
日本に帰国してLa Maison Doréeを立ち上げたのはなぜですか?
フランスで過ごした6年間で、私は何度も「もっと早くこの料理に出会いたかった」と思いました。
フランス料理は「難しい」「高い」「家では無理」というイメージが先行しすぎている。
でも実際は、正しい手順と少しの手間があれば、家庭でも本格的なフレンチが作れる。
その誤解を解きたかった。沖縄の祖母が台所で歌いながら料理したように、
誰もが自分の台所でフランス料理を楽しめるようになってほしい。
La Maison Doréeは、そのための場所です。
ミシュランの星より、誰かの家の食卓が豊かになることの方が、私には意味があります。
レシピを作るうえで最も大切にしていることは何ですか?
「再現性」と「感動」の両立です。どんなに美味しいレシピでも、
家庭で再現できなければ意味がない。逆に、誰でも作れても感動がなければただの作業になる。
そのために私は必ず、料理を公開する前にスタッフの家族に作ってもらいます。
プロではない人が、普通のキッチンで、普通の道具で作ってみる。
その結果を見て、初めてレシピを完成させます。
あともう一つ、「なぜ」を必ず伝えること。なぜこの温度なのか、なぜこの順番なのか。
理由がわかれば、料理は応用できる。応用できれば、料理が楽しくなる。
楽しくなれば、台所に立つ時間が喜びになる。それが私の目指すゴールです。
最後に、これからサイトを訪れる方へメッセージをお願いします。
フランス料理を難しく考えないでください。
大切なのは、食べる人のことを想いながら作ること、それだけです。
一番好きな食材を買って、一番大切な人のために料理をしてみてください。
完璧じゃなくていい。少し焦げてもいい。それでも、あなたが心を込めて作ったものは、
どんなレストランの料理よりも美味しいはずです。
このサイトのレシピが、あなたの台所での小さな冒険のきっかけになれば、
こんなに嬉しいことはありません。
Bon appétit!